ココナッツオイルは肌に良いと喧伝され一頃流行りました。
ココナッツオイルは外国のセレブがスキンケアに使っていると紹介されてから、美容アイテムとして話題になったオイルの一種です。
コマーシャリズムに乗って価格も上昇し一頃ブームを引き起こしました。
ココナッツオイルは肌に良いと言われています。本当に肌に良いのでしょうか。限りなくゼロに近いビタミンやミネラルの含有量をみると疑問に思わざるを得ません。
本稿ではココナッツオイルについて、本当に肌に良いのかどうか調べてみました。
はじめに、ココナッツオイルとはどういうものなのでしょうか。
ココナッツオイルとは
ヤシ油とも呼ばれ、熱帯地域で生育する単子葉植物ヤシ科の高木、ココヤシの果実の種子の胚乳から精製されるオイルです。
この果実とはいわゆる椰子の実のことで、ココナッツと呼ばれます。食べ方には様々なレシピがありますが、基本的には、硬い殻を割り、果汁はストローを使い、果肉はスプーンで剥がして食べます。
ココナッツオイルはこの椰子の実の種子の胚乳から抽出される成分です。
次にココナッツオイルの栄養素について調べてみます。
ココナッツオイルの栄養素
ココナッツオイル100g中に含まれる栄養素を以下に挙げます。
■カロリー 862kcal
■炭水化物 0mg
■蛋白質 0mg
■脂質
飽和脂肪酸 86.5g
一価不飽和 5.8g
多価不飽和 1.8g
■ビタミン
ビタミンE 0.09mg
ビタミンK 0.5μg
コリン 0.3mg
■ミネラル
鉄分 0.04mg
※出典: USDA栄養データベースより
この分析ではココナッツオイルの栄養素はほぼ9割以上を占める脂質だけでした。
極論かも知れませんが、脂質以外の栄養成分はビタミン類と鉄だけですが、それらの含有量は微々たるものであり、ゼロと見なしても良いのではないでしょうか。栄養素としてはもとより他の何らかの薬理作用はほとんど期待できないかと思われます。
従ってココナッツオイルの効果はその9割を占める脂質の分析で判明すると言えるでしょう。
脂質は「脂肪」の栄養学上の呼び方であり、炭水化物と蛋白質に並んで3大栄養素の一つです。
そして脂肪を構成する脂肪酸はエネルギー源になると共に体内で多様な物質に変換されることで様々な働きをします。
ではココナッツオイルの脂質とその特徴について解説します。
ココナッツオイルの脂質と特徴
●飽和脂肪酸 含有量:86.5g/100g
ココナッツオイルに含まれる飽和脂肪酸のうち、およそ半分は中鎖脂肪酸であるラウリン酸で構成されています。
ラウリン酸には抗菌作用や抗炎症作用があることが分かっています。
中鎖脂肪酸は、吸収が早くエネルギーとしてすばやく分解されるので脂肪として蓄積されにくい特徴があります。
●一価不飽和脂肪酸 含有量:5.8g/100g
一価不飽和脂肪酸はオレイン酸で知られているオメガ9系脂肪酸であり、体内でも合成できる栄養素です。
血中の悪玉コレステロールの値を下げ、強い抗酸化作用があるとされています。
オレイン酸はオリーブオイルに多く含まれ、品種改良型のなたね油や紅花油も開発されています。
●多価不飽和脂肪酸 含有量:1.8g/100g
多価不飽和脂肪酸はオメガ3系とオメガ6系に分けられます。この系統はどちらも体内で合成できない必須脂肪酸であり、食事などで摂取しなければなりません。
EPA(エイコサペンタエン酸)や DHA(ドコサヘキサエン酸)が知られていますが、これらはα-リノレン酸が肝臓で吸収された後、10%の割合でEPAに変換され、最終的にDHAに変換されます。
EPAは抗血栓作用をし、DHAは脳内で神経細胞膜に働き、記憶力を向上させると言われています。
大半はリノール酸で構成されますが、リノール酸は更にγ-リノレン酸やアラキドン酸となり最終的には、プロスタグランジンというホルモン様の生理活性物質の材料となり、生命活動に重要な役目をします。
次に脂質以外の栄養素を解説します。
脂質以外の栄養素
以下の栄養素は含有量が極めて微量であり限りなくゼロに近いためその作用はほぼ期待できないと思われますが、参考のために各栄養素の働き記載します。
●ビタミンE 含有量:0.09mg/100g
通常α-トコフェロールがビタミンEと認定されています。含有量が微量であり効果は期待できないと思われます。
このビタミンは油に溶ける性質を持つ脂溶性ビタミンであり、過酸化脂質の生成を抑え、ホルモン分泌を活性化させるのでアンチエイジングに貢献します。
ビタミンEの成人1日あたり摂取量は6.5mgとされています。
食べ物では魚介類やアボカド、ナッツ類、植物油に多く含まれており、アーモンドなら15粒、紅花油では大さじ2杯分が相当します。
●ビタミンK 含有量:0.5μg/100g
これも脂溶性ビタミンで、血液を凝固させる作用があり、骨や歯の形成にも関与している栄養素です。含有量としてはゼロに等しい分量です。
ビタミンKは納豆に非常に多く、1パック(40g)には240μgも含まれています。その他には、こまつ菜やほうれん草などの緑黄色野菜にも多く含まれています。
成人1日あたり摂取量は150μgが必要。
食べ物では、納豆1/2パック、ほうれん草1/3束に相当します。
ここで「μg(マイクログラム)」という重さの単位が出てきますが、1μgは100万分の1グラムになります。
●コリン 含有量:0.3mg/100g
コリンはビタミンには分類されませんが、体内に摂り込まれるとビタミン様の働きをし、細胞膜や神経組織の成分であるレシチンの材料となる水溶性の栄養素です。
体脂肪の代謝を助け、コレステロール値を下げる効果を持つと言われています。
食べ物ではそれぞれ100gに対して、豚ベーコン炒めに87mg、イチゴに4.1g、茹でほうれん草は22g含まれています。
アメリカにおける1日摂取量は男性550mg、女性で425mgが奨励されています。日本では特に決められていません。
●鉄分 含有量:0.04mg/100g
ココナッツオイルに含まれるミネラルは微量の鉄分のみでした。
成人1日摂取量は7.5mg
ちなみに同じ100gの分量で比較すると納豆では3.3mg、パセリでは7.5mgも含まれています。
ココナッツオイルは本当に肌に良いの?
少なからずの人がココナッツオイルを肌に使っているようです。ここではその目的と効果について探ってみます。
●ニキビ治療
まず「ニキビ治療」として使っている場合効果は有るのでしょうか。この使い方はラウリン酸の抗菌作用や抗炎症作用がニキビ治療に有効であることが実証されていることから拡散したようです。
しかしこれはあくまでも研究室で純度の高いラウリン酸を用いてのことであり、その通りの効果をココナッツオイルで出せるかどうかは微妙です。ココナッツオイルの中鎖脂肪酸に含まれるラウリン酸は50%程度の濃度です。
更に中鎖脂肪酸は粒子が細かいので、その分肌に吸い付きやすく毛穴を塞ぐとニキビが更に悪化する可能性があります。
この辺はニキビの程度や種類、体質によります。実際に検証してみなければ何とも言えないところがあります。
●保湿
次に「保湿」のために使っている場合効果はどうでしょうか。これはある程度の効果があるようです。口コミにも効果を実感している記事が比較的多く見られました。
ココナッツオイルはヒトの皮脂と同様の油分です。乾燥肌の人、敏感肌の人など極端に皮脂の分泌が悪い時にはココナッツオイルが肌の表面を保護して保湿の役目を果たすこともあり得ると思われます。
●クレンジング剤
そして、多いのが「クレンジング剤」として使用する例です。これは油分でコスメの油を落とそうという発想と思われます。肌の敏感な人はフォームなどを使うとテキメン肌が引きつります。
そうした時にココナッツオイルを使うことで刺激が緩和されるのかも知れません。
ファンデーションなどの重たい油分が確実にとれるようでしたら効果があると言えるでしょう。
しかしその際にもダブル洗顔でココナッツオイルの粒子もすべて洗い流すことが皮膚科の医師により推奨されています。
●日焼け止め
最後に「日焼け止め」として肌に使うケースも多かったのですが、ココナッツオイルの特徴に紫外線カットの力があると言われています。
ココナッツオイルに含まれる脂肪酸の抗菌作用や抗炎症作用、抗酸化作用によりメラニン色素の抑制やシワの予防、火照った肌の手当、保湿といった効果は期待できるように思われます。
その際に使用するココナッツオイルは最高品質のものを選ぶようにします。
ココナッツオイルは完熟したものを未精製で低温圧搾し、発酵したものをフィルターろ過して抽出されたものが、エクストラバージンオイルといわれ最高品質とされています。
おわりに
ココナッツオイルは、いろいろな効能が喧伝されており、様々な使い方がされていますが、あくまでも植物油脂の一種であり、医薬品とは違います。
ニキビや日焼けなどの手当は専門医を受診することで最適な医薬品が処方されます。クレンジング剤は、それ用に開発された優れた商品が出回っています。
どのような使い方をするにしても効果がなければ使用を中止し、肌に良い効果を実感される場合には使用を継続されたらよいかと考えます。
体質や肌質は人それぞれ、千差万別です。化粧品においてもこの成分が絶対ということはあり得ません。
しかしココナッツオイルに過度な期待を寄せるのは如何なものかと考えます。