遺伝のことと、遺伝形質の発現について!

ヒトは遺伝によってどの程度まで遺伝形質が発現されるのでしょうか。

このテーマを考えるにあたって、「遺伝」という言葉には、遺伝子、遺伝形質、染色体、或いはDNA、ゲノムなどいくつかの関連用語を理解しなければなりません。

ヒトのDNAのイメージ画像
本稿では「遺伝」のことについて関連用語を交えて分かりやすく解説すると共に、遺伝によってどの程度まで遺伝形質が受け継がれ発現されるものなのか調べてみました。

はじめに、「遺伝形質」という言葉からお話していきます。

遺伝形質って何……?

人間の外観や特徴のうちでDNAの遺伝子情報に基づいて子孫に受け継がれるもののことを言います。

身長、体型、体重、髪の色、目の色、肌質、体内の組織や内蔵器官の構造や特徴、加えて体内の酵素やホルモンの特徴なども入ります。

詳細に言うと、10万種類といわれる身体の各部分を構成するタンパク質や細胞の組み合わせや組み立て方が受け継がれます。その他にも環境に対する心理的な反応や性格的なものも遺伝形質として受け継がれます。

こうしたことが遺伝される要素になるわけですが、遺伝されたからといって必ず発現するわけではありません。

そしてこれらの遺伝形質を子孫に伝える役目をしているのが遺伝子になります。

遺伝子の正体は……!

DNAの中の遺伝に関する情報を持っている部分を遺伝子といいます。遺伝子イコールDNAではありません。DNAは遺伝子を含んでいる物質として「遺伝情報の本体」と呼ばれることがあります。遺伝子とはDNAの中で情報伝達が機能している一つの単位になります。

このことから遺伝子と遺伝の意味の違いは以下のようになります。

遺伝子とはどのように形質を伝えるかの情報を持っている因子のことであり、遺伝とは、遺伝子によって形質が子孫に伝えられていくことを言います。

DNAのこと、わかりやすく

DNAとはデオキシリボ核酸と言われ、遺伝子を内包し、染色体を構成している紐状の物質です。

ヒトを構成している細胞は60兆個あると言われています。その細胞の中にはそれぞれ核が存在しており、その核の中に存在する糖とリン酸でできた紐状の分子がDNAです。DNAの形状は二重螺旋構造をしており、螺旋階段のようにねじれています。

この二本鎖のDNAを、ステップ部分で橋渡しをしているのが4種類の塩基物質であり、特定の2種類の塩基が水素結合されて対になって梯子のように2本のDNAを繋いでいます。遺伝子はこの塩基の並び方で成り立っています。そしてこの紐状のDNAは最終的には染色体を構成します。

4種類の塩基物質の組み合わせは常に「G・C」「T・A」の対で結合されます。

塩基物質の名称は以下の通りです。

 A :アデニン
 T :チアミン
 G :グアニン
 C :シトシン

この塩基の並び順が遺伝情報であり、この組み合わせが機能する単位が遺伝子ということになります。人体を構成する10万種類ものタンパク質を組み立てて人体を作るための設計図になります。

人間の持つDNAは99.9%が共通しており、残りの僅かな部分の微妙な組み合わせにより様々に異なる形質が遺伝され、発現されることになります。

よく聞く染色体のお話

染色体はDNAの長い糸により構成されています。遺伝子はそれぞれ染色体上の特定の場所を占めています。

人間ではすべての細胞内に22対の常染色体と1対の性染色体、合計46本の染色体が存在します。それぞれ対となっている染色体は、片方を父方から、もう片方を母方から受け継いでいます。

男性になるか女性になるかは胎児の段階で、性染色体により決まります。男性はX染色体とY染色体を1本ずつ持っていますが、そのうちX染色体は母方から、Y染色体は父方から受け継ぎます。女性はX染色体を2本持ちますが、1本は母方、もう1本は父方から受け継ぎます。

染色体の数は生物の種によって違います。合計数を以下に挙げます。

 ●ヒト 46、チンパンジー 48
 ●猫 38、犬 78、牛 60、豚 38
 ●ライ麦 14、玉ねぎ 16、小麦 42

なお遺伝子と染色体に関わる用語に「ゲノム」という言葉がありますが、ゲノムとは遺伝子 (gene) と染色体 (chromosome) から合成された言葉で、生物が正常な生命活動を維持できる基本となる1セットのDNA全体のことを言います。

つまりDNAのすべての遺伝情報のことを意味します。

遺伝形質はどのように発現するの?

このようにして様々な形質が遺伝された場合、どのように発現されるのでしょうか。

これには興味ある分析結果があります。

ヒトの体質や性格、能力や芸術的な才能などが遺伝によってどの程度の影響を受けるのかを膨大なデータを元に分析する行動遺伝学という学問分野があります。

この分析を専門的に手掛けた研究者によると、一卵性双生児と二卵性双生児の比較も含めた長年にわたる詳細な分析・研究の末、

要旨として、およそ50%は先天的な遺伝の影響を心理面、行動面、及び知能も含めた性格面で、受けているという結果を示したそうです。

仮に良い面であれ、悪い面であれ、遺伝として受け継いだとしてもその形質の発現は後天的な教育や環境に依存しているということでした。

ここで重要な点は、後天的な教育や環境が将来的に子供を開花させるか、あるいは逆に子供を損ねてしまうかどうかに大きく関与しているということです。

その子が関心を抱く得意な分野を見つけてやり、環境を整えてあげることが大切になります。読み聞かせをしてやったり、ある年齢に成長し知識欲が芽生え、辞典に興味を示したら、複数の大百科事典集を何時でも閲覧できるように身近な場所に設置してあげるのもいいでしょう。

分析では同時に、しつけが一貫していなかったり、厳しすぎる場合には問題行動が発現する傾向があるそうです。

さらに無理やり何かをさせたりせずに、むしろ自由にさせていた子の方が知的能力も向上するという結果も出ているそうです。

おわりに

人間の能力はおよそ半分は遺伝によって決まっているということ……。

このことをどのように受け止めるでしょうか。

それならば無駄なことは止めようとばかりに、現在の努力や志を放棄するとしたら、あまりにも早計のような気がします。

しかし関心も興味もわかないことに時間をかけるよりも、別の方向性を捜してみるという選択肢はあり得るかも知れません。

どのような遺伝形質を受け継いだとしても、この世での努力が一切無駄になることは有り得ないと考えます。

自ら一歩一歩進化しようと努力していく姿勢が大切なような気がします。