ほうれん草の毒性の正体と、安全な食べ方について!

ほうれん草はいつも食卓を飾る栄養豊富な青菜野菜の代表格と言えます。様々なレシピがあり、ほうれん草が大好物な人も結構おられます。
ほうれん草の毒性の正体と安全な食べ方についてのイメージ・ほうれん草の画像
しかしこのほうれん草、食べ方に注意しないと危険な特徴があります。

ほうれん草が江戸時代に日本に入ってきた時から先人たちは「ほうれん草に微毒あり」と、経験的にほうれん草の毒性に気づいていました。私達は代々受け継がれてきた調理法により、現在安全にほうれん草を食べています。

本稿ではほうれん草の毒性の正体を解明すると共に、安全な食べ方について解説していきます。

ほうれん草の毒性とは?

ほうれん草は炭水化物やタンパク質、食物繊維をはじめ、ビタミンB、C、E、K、葉酸、カロテンなどのビタミン群、鉄、リン、カリウム、カルシウムなどのミネラル群をバランスよく含む最高の栄養食品である反面、以下のような毒性も併せ持っています。

シュウ酸を含む
基本的に葉物野菜やお茶類はシュウ酸を含んでいますが、ほうれん草はその中でも特に多く含んでおり、毎日多量に摂取すると体内に結石を作りやすくなります。そのためシュウ酸の含有量を減らす下ごしらえが必要になります。

硝酸態窒素を含む
さらに硝酸態窒素を含んでいます。これも葉物野菜の茎や葉に普通に存在しており、それ自体は人体には無害ですが体内でタンパク質と反応して「ニトロソアミン」という発がん性物質を生成することがラットなどの小動物実験で確認されています。

硝酸態窒素はさらに胃などの消化器で毒性のある亜硝酸塩に変換され、血液中のヘモグロビンと結合するとヘモグロビンは酸素を運べない「メトヘモグロビン」となってしまい、血液中にメトヘモグロビンが増えることで酸欠状態をきたし呼吸困難となります。

乳幼児など体の抵抗力が弱い場合、最悪死亡することもあります。これをメトヘモグロビン血症と言います。

硝酸態窒素はほうれん草の成分というよりも、窒素肥料を過剰に使用することに起因してほうれん草に蓄えられる物質という一面があります。

欧米では過去の、乳幼児がメトヘモグロビン血症で死亡する、いわゆるブルーベビー事件のせいか野菜に含まれる硝酸態窒素の含有量は規制されていますが、現在日本では規制はありません。しかし近年では硝酸態窒素が原因であるとする説は疑問視されています。

ほうれん草の毒性の正体は?

農薬や化学肥料由来の毒性は除外するとしても、果物や植物、豆類、野菜類はすべてある種の毒性を持っています。

これは動植物や害虫、紫外線などから身を守ろうとする自衛のための成分であり、植物独特の苦味や粘り、渋み、臭み、アクなど、これらの毒性の正体は、光合成などを介して植物自らが生成する、広義のファイトケミカルと言えます。

毒と薬は表裏一体であり、ファイトケミカルの中でも抗酸化作用や動脈硬化や心筋梗塞の予防作用、美白作用など、ヒトに有益な物質もあり、これが狭義のファイトケミカル、第7の栄養素と呼ばれています。通常、ファイトケミカルとはこれを意味します。

このファイトケミカルには何千、何万という種類があり、日々新たな物質が発見されており、栄養学的にというよりも薬理学的に注目を浴びている成分です。

現在の主要な抗がん剤にバクリタキセルがありますが、これはセイヨウイチイの木から発見された物質です。

しかし現時点で毒であるものは毒性を緩和させる工夫をしなければなりません。

次にほうれん草の安全な食べ方について解説します。

ほうれん草の安全な食べ方は?

毒性を軽減させるためのアク抜きが必要です。先人の知恵は「茹でる」、「煮る」、「焼く」、「蒸す」ことを教えています。このアク抜きの工程を省いて直接食べることはやめたほうが無難です。

ほうれん草は「茹でる」ことでアクを抜きます。以下にほうれん草の茹で方の一例をご紹介します。

茹でるとアクが抜けシュウ酸などの毒性が除去されます。茹で時間は「長すぎず、短すぎず」がポイントです。

茹で時間が長いとビタミンCを始めとする水溶性のビタミン類も同様に消耗する上に、柔らかすぎて美味しくなくなります。短いとアクがそれほど抜けません。

茹で方:アク抜きの手順

  1. たっぷりの沸騰したお湯によく洗ったほうれん草を先に根元の方から入れ、20秒ほど根元を茹でたら、次に葉っぱを含む全体をお湯の中に入れて30~45秒程度茹でます。
     
    途中1〜2回上下をひっくり返します。この時割り箸を使うと滑らないのでいいかも知れません。
     
    茹でる前にお湯に小さじ一杯の塩を入れたり、ほうれん草の根元に繊維に沿って切れ目を入れる人もいます。これは鮮やかな緑色をしたほうれん草の色褪せを防ぐためとアクを抜けやすくするためです。
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  3. 茹で終わったらお湯を切って、予め用意しておいた冷水の中に浸します。ここでよく水洗いをしてアクを抜きます。
     
    水の中で根元をまとめてギュッと絞るようにするとアクが抜けます。この過程でシュウ酸を始めとするアクは半減すると言われています。20~30秒ほどで洗いと絞りを繰り返したら水から上げてギュッと水分を絞ります。
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  5. 後は適当な長さにカットすれば出来上がり。すぐに冷蔵保存します。
     
    アク抜き後のほうれん草は日持ちがしません。冷蔵保存は2日を限度として余ったほうれん草は捨てるほうが無難です。常温で48時間を過ぎると残存毒性の値が著しく上昇するという海外の実験結果があります。

 
あとはここまで下ごしらえしたほうれん草を栄養バランスを考えて料理します。ほうれん草にはたくさんのレシピが紹介されています。

胡麻和えイメージ
ビタミンの相乗効果を考えるとビタミンCとEは相性が良く、ビタミンEを多く含むごまと一緒にほうれん草のごま和えなどで頂くと効率よく栄養分が摂取できます。

植物の毒性とヒトの防御機能

植物はヒトに有益な物質を持つと共に毒性も併せ持っています。ほうれん草にしてもカロテンなどは抗発がん作用によりヒトに有益なファイトケミカルですが、シュウ酸はヒトには害として作用します。

ただしヒトは多少の毒性が体内に侵入しても腎臓や肝臓、さらに腸内の善玉菌や酵素の働きなどにより、自然の防御反応として排除、無害化します。それでも追いつかない場合には嘔吐や下痢のかたちで体外への排出を試みます。

しかし乳幼児はこのような身体の防御機能は極めて未熟であり注意が必要です。

あとがき

自然の植物を安全に摂取するには個々の植物に対する正しい知識をもつ必要があります。

野草がとりわけ生命力が強いのはそれだけ強力な毒性で身を守っているためと考えるべきです。春先の七草料理や野草料理などは正確な知識で、きちんとしたアク抜きをして料理しないととんでもないことになります。

逆に考えるとそれだけ強い毒性も、研究を重ねていくうちに画期的な特効薬の開発につながったりもします。ファイトケミカルが注目されだしたのはごく最近のことです。さらなる研究の進展が望まれます。