10月1日に今度の日本人ノーベル生理学・医学賞受賞者が決まりました。
京都大高等研究院の本庶佑(ほんじょたすく)特別教授です。教授は30年以上も前からガンの研究に地道に取り組み、オプジーボという抗がん剤の開発に成功し画期的な抗がん免疫治療法を確立しました。
こうした活動が現在に至ってノーベル賞受賞という形で認められたものです。
これはがん免疫療法になりますが、本稿はこの抗がん治療法について簡単にまとめてみました。
画期的な抗がん免疫療法とは
教授は1992年に免疫細胞の中に「PD-1」という物質を発見しました。
その後更に研究を重ねオプジーボという画期的な抗がん剤の開発に成功しました。
オプジーボががん細胞を撃退する仕組みは、ヒトの持つ免疫細胞の活性化にあります。
そのメカニズムは、
体内でできたがん細胞に対してこれを排除しようと免疫細胞であるキラーT 細胞が迎撃に向かいます。
しかしがん細胞の中の「PD-L1」という物質がキラーT 細胞の中の「PD-1」と結合してキラーT 細胞の動きを封じ込めてしまうことが分かったのです。そのためにキラーT 細胞は防衛できずに、がん細胞は一気に増殖します。
この時にオプジーボはがん細胞の「PD-L1」とキラーT 細胞の「PD-1」との結合を阻止する働きをします。
その結果免疫細胞のキラーT 細胞は免疫作用を封じられることなくがん細胞を撃退できることになります。
その画期的な効果も立証されるものとなりました。
免疫治療はオプジーボ開発以前から既にありましたが、効果が立証されたものではなく民間療法的に僅かに採用されていたという程度でした。
しかし、この有力な抗がん剤治療薬にも問題点があります。
オプジーボの問題点
オプジーボの問題点を二つ挙げます。
オプジーボの薬価費用は極めて高額です。
大雑把に見積もると、オプジーボ開発当初は成人患者一人当たりの年間薬価費用は3500万円を超えます。
もともとはメラノーマ(悪性黒色腫)という皮膚がんの薬(保険適用)であったので需要数も低く、高額な価格設定になったようです。
これに対し厚生労働省も動き出し2017年2月には50%引き下げられ、保険適用となり、限度額適用認定証を申請すれば、自己負担限度額を抑えることができるようになりました。
同時にオプジーボの保険適用を腎臓がんの一部や肺がん、胃がんなど、皮膚がん以外へも拡大する動きになっており、臨床試験も続けられています。
2018年時点で厚労省は既に「薬価制度の抜本改革」に着手しており、オプジーボの薬価のさらなる引き下げを発表しています。
それは今年度からの新ルールに基づき、現行薬価の38%に引き下げられ、11月から適用されます。
オプジーボには強い副作用があります。
医薬品には必ず副作用があります。オプジーボも例外ではありません。
オプジーボによる副作用は抗がん剤のように嘔吐や脱毛は少ないですが、重い糖尿病や間質性肺炎などの症状が出る場合があります。
参考までに主な副作用の一部を挙げます。
- 腎障害
むくみ、尿が減る、尿が出ない、血尿、発熱
- 皮膚障害
まぶたや眼の充血、全身性の赤い斑点、だるさ、発熱
- 神経障害
運動麻痺、感覚麻痺、しびれ
- 肝機能障害
黄疸、疲れやすい
- 大腸炎
重度の下痢、血便、腹痛、吐き気
- 間質性肺炎
空咳、発熱、疲労感、息切れ
以上がざっと挙げられますが、副作用による死亡例もあります。
更にオプジーボによる治療中に不用意に何らかのワクチン接種などを受けてはいけないことや、
他の抗がん治療薬と併用しないこと、条件によってはオプジーボによる治療を受けられない場合もあることなどの注意点もあります。
思い当たる症状が出た時には自己対応せずに、すぐに医師に連絡することが望まれます。
おわりに
大学など教育機関や研究機関における「特別教授」という職階は「別格扱い」を意味するそうです。すぐれた業績をあげ、指導的な役割を果たしている研究者に付与される名誉ある称号のようです。
今回のノーベル賞の受賞に至るまでには30年以上の絶え間ない研究と努力の日々がありました。
人類に大きな貢献ができた裏側にはこうした地道な努力の積み重ねがあったことを改めて思い知らされました。