人前だと手が震えて字が書けない……、治療法は!

人前だと極度の緊張感に襲われて手が震えて字が書けないという人は意外と多いようです。

日常、様々な場面で人前で字を書く機会が出てきます。

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会社や役所などの改まった場所で、担当者の目の前で書類に必要事項を記入しなければならないような場面になると極度の緊張感に襲われて、手が震えて字が書けなくなります。

こうした時の症状には手の震えを始めとして、激しい動悸、頭や身体及び声の震え、身体の硬直、食事も喉が通らなくなる、汗が止まらなくなる等々様々なものがあります。

このような症状のうち震えが出る状態は本態性振戦(ほんたいせいしんせん)と言われています。

本稿では、本態性振戦とはどのような状態なのか、手の震えに対してはどのような治療法があるのかリサーチしてみました。

本態性振戦とは

意図せずに震えが起こり困っているけれどもその原因が不明である症状のことを言います。

このような症状は60代~70歳代と高齢になるにつれて増えますが、10代の思春期辺りから40歳代の人にも見られます。

原因が不明であるといっても、性格的にあがり易い人や緊張し易い人に多く、性格的な要因が原因として挙げられています。また本態性振戦は家族に同じ症状の人が多いことから遺伝的要因も原因として考えられています。

震えという不随意運動症は脳が関与しており脳の視床の一部に根本原因があることが分かっています。従ってその部位を破壊したり、電気的に刺激する治療法がなされています。

程度の差もありますが、手の震えの場合本態性振戦は震え以外の症状は発現せず、良性で悪化はしないため本人がよほど困ることが無い限り治療の必要はないとされています。

他の病気との区別

本態性振戦と手の震えが出る他の病気とは区別しなくてはなりません。

震えがでるのが安静時なのか、もしくは動作時なのかで分類すると震えを発症する病気が幾つか出てきます。

基本的に本態性振戦は椅子やベッドに横になっている安静時には発症しません。字を書こうとしたり、コップを持とうとしたり、何らかの動作をしようとする時に手が震える状態になります。高齢になると動作時や静止時においても手が震えることがありますが、これは本態性振戦の一種で老人性振戦とみなされています。

同様に何かの動作をしようとする時や動作時に震えが出る病気は本態性振戦の他に、甲状腺機能亢進症や脊髄性小脳変性症、及び小脳腫瘍など、小脳に関わる病気が考えられます。

但しこうした動作時の手の震えは圧倒的に本態性振戦が多いと言われています。

一方、椅子やベッドに横になっている安静時に手足が震えるのはパーキンソン病が考えられます。

手の震えを発症する原因は他にも薬の副作用なども考えられます。このように本態性振戦以外にも手の震えをきたす要因があります。

では次に本態性振戦を含めて手の震えに対してどのような治療法があるのでしょうか。

手の震えに対する治療法

治療法には、精神面での問題点をクリアすることで症状の改善につなげようとする各種トレーニング療法と医薬品による薬物療法、及び外科的治療法があります。

トレーニング療法

トレーニング療法には有名な森田療法や自立訓練療法、アサーショントレーニングなどさまざまなものがあります。

アサーショントレーニングとは、相手を尊重した上で自分の考えを正確にしかも適切な方法で緊張することなく相手に伝えることのできる能力を習得する訓練になります。

通常、トレーニング療法は半年から数年といった長い期間がかかります。

手の震えの要因となる極度の緊張感や不安感はこのようなトレーニング療法により改善されると考えられています。

薬物療法

一般的に抗不安薬が処方される場合が多いようです。

抗不安薬の処方

通常はベンゾジアゼピン系抗不安薬が処方されます。

動悸や震えに有効なβ(ベータ)遮断薬の処方。

さらに人前に出るなど震えては困るという場面がある人は、交感神経の働きを和らげるβ遮断薬が処方される場合があります。β遮断薬には保険が利くものと利かないものがあります。

SSRIタイプの抗うつ薬の処方

不安障害の症状が毎日持続的、断続的にあるような人は抗うつ薬が処方される場合もあります。

外科的手術

薬物療法で効果が見られない場合や、症状の完治を希望する場合、及び症状が重篤な場合に採られます。

脳深部刺激療法

従来は脳の視床の一部に適切な電気的刺激を与える方法が取られてきましたが、これは脳や体内に電極や機器を埋め込むことから敬遠され課題の多い治療法でした。現在は切開せずに脳への治療が可能な方法が臨床研究されています。

MRI&経頭蓋集束超音波療法

2016年12月に「経頭蓋集束超音波装置」が厚生労働省により医療機器として承認されました。

患者はヘルメット状の機器をかぶって横になり、頭部をMRIの装置内に固定して、MRIと集束超音波装置を連動させて、頭の外側から超音波を集束照射してピンポイントに震えの原因となっている部位を焼却する治療法になります。現在臨床研究では良好な結果を得ています。

切開せずに頭部外から脳に超音波をあてて治療を加える方法として画期的な治療法と言えます。

おわりに

本態性振戦の手の震えは本人が特に困っていなければ治療の必要は無いとされていますが、症状が悪化したり、仕事上やその他の面で支障をきたしている時には治療が必要になります。

このような場合、一人で抱え込まずに「神経内科」もしくは「心療内科」に受診することをお勧めします。

専門医の適切な治療法により、これまで深刻に悩んでいた症状が劇的に改善するからです。

人前で字を書く必要のある時には予め緊張を和らげる抗不安薬やβ遮断薬などの医薬品を効果的に処方してもらうこともできるわけです。

その他に手の震えを発症させる他の病気が見つかる場合もあります。特に手の震えが継続して起こったり、特定の場面ではないのに予測なく発生したりする時には要注意です。

震えの症状が深刻で高度な定位脳手術が必要になった場合、医療機関の選択にあたってはこちらの資料が参考になります。別窓で開きます。

これは日本定位・機能神経外科学会で公開している施設と技術認定医療機関のリストになります。

それぞれの機関の年間手術件数などの実績も参考にして医療機関を決めるとよいかと思います。